東京地方裁判所 昭和26年(ワ)7629号 判決
原告 吉田藤一郎 外一名
被告 共和ゴム株式会社
一、主 文
被告会社が昭和二十六年十一月三十日同会社本店事務所に招集した臨時株主総会における、(一)商法改正に伴いその定款を別紙<省略>記載のように変更する旨の決議は、これを取消す。
前項の株主総会における、(二)株主吉田藤一郎外七名からなされた、取締役高木政勝、同新庄鹿一及び監査役井田十郎に対し責任追及の訴訟を提起する請求につき、その採択を否決する旨の決議並びに、(三)工場を閉鎖する旨の報告を承認する旨の決議はいずれも無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として、「原告等は被告会社の株主であるところ、同会社が昭和二十六年十一月三十日その本店事務所に招集した臨時株主総会において主文第一、二項掲記の(一)乃至(三)の決議がなされた。しかしながら、被告会社が同月十五日その株主に対し発した右株主総会の招集通知中、右(一)の定款変更の議案については単に『商法改正に伴う定款変更の件』と記載したに止まり、右議案の要領を記載しなかつたから、右(一)の決議はその総会招集の手続に商法第三百四十二条第二項違反の瑕疵があり取り消さるべきものである。仮に右違反は、決議取消の事由となる総会招集手続上の瑕疵といえないとしても、前記株主総会の議長中島勝三郎は右議案を審議するに当り、半数近くの議決権を代表する株主杉浦英一郎に殆ど発言を許すことなく採決を強行したものであるから、右(一)の決議の方法は著しく不公正である。次に前記(二)の役員の責任追及の訴訟提起に対する請求の採択を否決する旨の決議及び(三)の工場を閉鎖する旨の報告を承認する旨の決議の内容は、法律又は定款が株主総会の決議事項として定める事項でないから、右決議は商法第二百三十条の二に違反し無効である。よつて右(一)の決議の取消及び(二)(三)の各決議が無効であることの確認を求める。」と陳述し、なお「右(一)の決議による定款変更は旧定款の一箇条毎に改正を加えたものでなく全体を包括的に書き改めたものであるが、その新しい定款中には例えば第五条『当会社の発行する株式の総数を三十二万株とする。当会社の額面株式、一株の金額を五十円とする。』という規定のように、従来の資本金額二百四十万円に較べると(もつとも被告会社は従来資本金額を金四百万円であると称していたが、それに較べてもなお)資本のあり方に差異を生ずる重要な事項を含んでいるに拘らず、株主は右総会に出席するまで全然その要領を知らされなかつたのである。又(二)及び(三)の決議はその内容があたかも役員の責任を免除し、又はその行為を制限するような趣旨に解され、その点につき争を生ずるおそれがあるものである。」と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告主張の請求原因事実中、その主張する臨時株主総会において議長中島勝三郎が株主杉浦英一郎に殆ど発言を許すことなく議案の採決を強行したことを否認するが、その余の事実は全部これを認める。原告主張の(一)の決議については次のようなわけで右株主総会招集の手続には決議取消の事由となる瑕疵があるとはいえない。即ち右決議はその株主総会招集通知に明記したように商法改正に伴うものであつて、定款中右改正に伴い当然変更を要する部分及び同改正に当り右に準じて変更を許される最小限度の部分に変動を生ぜしめたものに過ぎない。例えば発行済の株式の四倍に当る株式を会社が発行する株式の総数とするようなことは当時一般に行われ、むしろそうするのが社会の常識となつていたのであるから、特にその旨の記載が総会招集通知中になくても、その『商法改正に伴う定款変更の件』という記載はこのような定款変更の議案の要領を包含するものと解すべきものである。次に原告主張の(二)及び(三)の決議についてはその無効確認を求める利益がない。けだし株主吉田藤一郎外七名からその頃被告会社に対し、取締役高木政勝等に対しその責任を追及する訴訟を提起することの請求があつたのであるが、同会社の取締役会はこれに対し、その採否は自らの権限に基き決するとしても、その事が会社にとり重大であるのみならず、仮に訴訟を提起するとしてもその場合株主総会は商法第二百六十一条の二により会社を代表すべき者を定める権限を有するので、右法条の趣旨にかんがみ、一応本件株主総会にはかることにし、その議に付したので前記(二)の決議が行われたわけである。又取締役会は被告会社の運営状況に照し工場を閉鎖する案を樹てたのであるが、商法第二百四十五条は営業の全部又は重要なる一部の譲渡その他会社にとつて重要な事項をなすにつき株主総会の特別決議によることを定めているので、会社の唯一の工場の閉鎖もその重要性がそれに匹敵するものとして、その実行前に一応本件株主総会にはかつた結果、(三)の決議があつた次第である。このようなわけで株主総会はこれらの決議により単に自らの意見を表明したに止まり、はじめから取締役会の業務執行を拘束し、又はその責任を減免する等の法律上の効果を期待していたものではないから、これらの決議は法律上意義なきものたること勿論であるけれども、さればとて敢てこれにつき裁判上無効であることを確認することもいらないのである。」と陳述した。<立証省略>
三、理 由
原告等が被告会社の株主であることは当事者間に争がない。よつて原告主張の株主総会の決議につき順次検討する。
先ず被告会社が昭和二十六年十一月三十日その本店事務所に招集した臨時株主総会において原告主張(一)の定款変更の決議がなされたこと、及び被告会社が同月十五日その株主に対し発した右株主総会の招集通知中に右議案について「商法改正に伴う定款変更の件」という記載をしたに止まり、それ以外に特に議案の要領を示さなかつたことは当事者間に争がないから、右総会招集手続には法令違反ありといわなければならないわけであるが、被告はこれに対し、右定款変更は商法改正に伴い当然変更となるか、又はこれに準ずるものとして許容される範囲内の変更に過ぎず、その内容は全部既に社会常識となつていたものであるから、右「商法改正に伴う定款変更」という記載は会議の目的たる事項を示すと共に、兼てその議案の要領をも含むものであると弁疎する。しかし、当時商法改正に伴つてなされた定款の変更において一般に被告会社の本件定款の変更における程度の変更を行つていたとしても、被告会社がこれにならわなければならないものでもなければ、被告会社の株主が被告会社もまたこれにならうことを当然に予知していたものともいえないのみならず、本件定款変更後の新定款第五条は発行する株式の総数を三十二万株と規定しているが、これを従来発行されていた株数(被告の自陳するところによるも八万株に過ぎない)に較べると、変更後の定款は取締役会に数倍の株式発行の権限を与えることとなり、この一事を以てしても前記定款変更は単に商法改正に伴い当然生ずべき変更であるとはいえないから、被告の右にいうところはこれを取消阻却の事由とするわけにはいかない。
次に原告主張(二)の役員に対する責任追及訴訟提起に関する株主の請求の採択を否決する決議及び(三)の工場を閉鎖することの報告を承認する決議につき按ずるに、被告は、株主総会がはじめから法律上の効果を有しないものと了解して決議を行つたときは、これに対し裁判上その無効を確認する利益がないという前提に立つて、本件決議が会社経営政策上から右のようなものとして成立した事情を説明する。しかし、株主総会の決議は、それが決議の際株主全員の間に法律上の効力のないものとの了解があつてなされた場合であつても後日役員がその決議を有効であるとして自己の行為の免責を主張する等の余地があるときは、その無効を確認する利益がないとはいえない。而して本件決議はいずれも取締役の職務の執行に関し直接具体的に賛否を表明したものに他ならないから、右に述べたような危険の余地が存するものである。故にこれにつき確認の利益を争う被告の主張は、事実上の判断をまつまでもなく理由がない。よつて進んで請求の当否を考えるに、被告会社の前記株主総会が原告主張のような(二)及び(三)の決議をしたことは当事者間に争がない。而して右決議は、株主総会が商法第二百三十条の二に反し、その許された決議事項を逸脱してこれをなしたものという他ないから、それは内容が法令に違反するものとして無効である。
よつて前記(一)の決議の取消並びに(二)及び(三)の決議の無効であることの確認を求める原告の本訴請求は理由があるものとして認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 中島一郎 川上泉)